バーチャルオフィスで困る3つの場面|許認可・本人確認・郵便物を法令の原文で確認
バーチャルオフィスは、住所を借りるだけでは済まない場面があります。
ネットでよく見る「デメリット」の多くは出典がありません。この記事では、法令と行政資料の原文で裏付けが取れたものだけを3つ書きます。
一番大きいのは、業種によっては許認可の事務所要件を満たせないことです。契約してから気づくと、住所を借り直すことになります。
結論:困る場面は3つ
| 場面 | 何が起きるか | 根拠 | 影響が大きい人 |
|---|---|---|---|
| 1. 許認可 | 事務所の面積や実体が要件になる業種がある | 厚労省 許可基準/国交省 解釈・運用の考え方 | 派遣・不動産など許認可が必要な業種 |
| 2. 契約時の確認 | 本人確認と事業内容の確認が済むまで契約が進まない | 犯罪収益移転防止法 第4条・第5条 | 今日中に住所が必要な人、事業内容を説明しにくい開業前の人 |
| 3. 郵便物 | 届いた時点では手元になく、転送に費用と日数がかかる | 各社公式サイトの料金表 | 郵便物が多い人、書留や期限付き書類を受け取る人 |
1. 業種によっては許認可の事務所要件を満たせない
許認可が必要な業種の中には、事務所の面積や実体そのものが審査対象になるものがあります。住所だけを借りる形態では、この要件を満たすのが難しくなります。
労働者派遣事業:おおむね20㎡以上
厚生労働省の許可基準には、事業所について次のように書かれています。
「事業所について、事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること。」
面積の数値が明記されている以上、物理的なスペースを持たない契約形態でこの要件を満たすことは難しいと考えられます。個別の判断は管轄の労働局が行います。
宅地建物取引業:営業の拠点としての実体
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)では、事務所を次のように定義しています。
「商業登記簿等に登載されたもので、継続的に宅地建物取引業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するもの」
「継続的に業務を行なうことができる施設」は「社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えたもの」
なお、このガイドラインに「バーチャルオフィス」という語は出てきません。「不可と明記されている」わけではなく、営業の拠点としての実体が求められている、というのが正確な読み方です。免許の可否は免許権者(都道府県知事または国土交通大臣)が判断します。
自分の業種が該当するか分からない場合
この記事で原文を確認できたのは上の2業種だけです。許認可が必要な事業を始めるなら、バーチャルオフィスを契約する前に、その許認可の窓口で事務所要件を確認してください。契約後に要件を満たせないと分かると、入会金や一括前払いの料金が戻らない場合があります(各社の途中解約の条件は6社の契約期間と解約条件にまとめています)。
2. 契約時に本人確認と事業内容の確認がある
バーチャルオフィスは、申し込めばすぐ使えるサービスではありません。法律で契約時の確認が義務付けられています。
バーチャルオフィスは「特定事業者」
犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第2条第2項第44号は、顧客に対して自分の住所を郵便物の受取場所として使わせ、届いた郵便物を顧客に引き渡す事業者などを「特定事業者」に含めています。バーチャルオフィスはこれに当たります。
確認される4つの事項(第4条)
- 本人特定事項 — 個人なら氏名・住居・生年月日、法人なら名称・本店所在地
- 取引を行う目的
- 職業(個人の場合)/事業の内容(法人の場合)
- 実質的支配者の本人特定事項(法人で該当者がいる場合)
応じなければ契約が進まない(第5条)
第5条は、顧客が確認に応じないときは、応じるまでの間、事業者が義務の履行を拒むことができると定めています。
また第6条により、事業者は確認記録を契約終了日などから7年間保存しなければなりません。
実務上の意味
- 「今日中に住所が必要」には間に合わない可能性があります。書類を揃える時間を見込んでください
- 法人で申し込む場合は、代表者だけでなく法人自体の確認が入ります
- 開業前で事業内容を具体的に説明できないと、確認に時間がかかることがあります
3. 郵便物は「届いた時点では手元にない」
郵便物はバーチャルオフィスの住所に届き、そこから転送されます。転送の頻度と費用はプランで決まります。
- 転送頻度が月1回のプランだと、月初に届いた書類が手元に来るまで最大1ヶ月近くかかる計算になります
- 転送料が別途かかるサービスがあります。例:DMMバーチャルオフィスは普通郵便〜150gで330円、レゾナンスは100g以下300円〜
- 急ぎの転送はオプション料金になることがあります。例:GMOオフィスサポートの「スグ転送」は1回550円
6社の転送頻度・重さ別の送料・書留や急ぎの追加料金は、郵便転送の頻度と送料を6社で比べた記事で1つの表にまとめています。
そもそも受け取れない・登記できないプランがある
最安プランには制約が付いていることがあります。調べた範囲では次の2つ。
- GMOオフィスサポート「転送なし」660円 — 法人登記に使えないと明記
- DMMバーチャルオフィス「ミニマム」660円 — 受け取れる郵便物が返品・返送・税金関連書類に限定
月額だけで選ぶと、使いたい用途に使えないプランを契約してしまいます。転送料と入会金を含めた実際の費用は、6社の1年総額比較で計算しています。登記・郵便・電話など用途ごとの候補は、用途別のバーチャルオフィスの選び方で絞っています。
バーチャルオフィスが向いている人・向いていない人
向いている人
- 許認可が不要な業種で、自宅住所を公開したくない個人事業主・法人
- ネットショップの特定商取引法表記用に住所が必要な人(使える条件は特商法表記にバーチャルオフィスを使う条件で整理しています)
- 郵便物が月に数通程度で、急ぎの書類がほとんどない人
向いていない人
- 事務所の面積や実体が許認可の要件になる業種を始める人
- 今日・明日中に住所が必要な人
- 書留や期限付きの書類を頻繁に受け取る人
この記事で確認できていないこと
よく言われるものの、一次資料で裏付けが取れなかったため、上のデメリットには含めていません。
- 銀行口座の開設で不利になるか — 金融機関の審査基準は公開されておらず、確認できませんでした
- 派遣・宅建以外の業種の事務所要件 — この記事では原文を確認していません
- 各社の審査の厳しさ・契約までの日数 — 契約しないと分かりません
- 同じ住所を他社と共有することによる信用面の影響 — 客観的な資料が見つかりませんでした
よくある質問
バーチャルオフィスを契約するとき、なぜ本人確認があるのですか?
犯罪による収益の移転防止に関する法律で、顧客に住所や電話番号を使わせて郵便物や電話を取り次ぐ事業者が「特定事業者」とされ、契約時に本人特定事項・取引を行う目的・職業または事業の内容などの確認が義務付けられているためです。
本人確認に応じないとどうなりますか?
同法第5条により、事業者は顧客が確認に応じるまでの間、契約上の義務の履行を拒むことができます。つまり確認が済むまで契約が進みません。
労働者派遣事業はバーチャルオフィスで許可を取れますか?
厚生労働省の許可基準では、事業所について「労働者派遣事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること」が要件とされています。住所のみを借りる形態でこの要件を満たすことは難しいと考えられますが、個別の判断は管轄の労働局にご確認ください。
まとめ
バーチャルオフィスで困るのは、許認可・契約時の確認・郵便物の3つの場面です。とくに許認可が必要な業種は、契約前に窓口で事務所要件を確認してください。
この3つに当てはまらないなら、次は費用です。月額表示には入会金と転送料が含まれていないため、1年総額で比べると順位が入れ替わります。
免責
本記事は法令・行政資料の記載内容を紹介するもので、特定の事業について許認可の取得可否や法的な判断を行うものではありません。許認可については各窓口(労働局・都道府県等)、法的な判断については弁護士・行政書士・司法書士等の専門家にご確認ください。